慶喜は土佐藩などの説得に応じて、将軍職を自ら辞職しました。このように、慶喜が戦争せずに政権を返還したから、日本は幕府軍と倒幕派による泥沼の内戦に陥ることなく、江戸幕府を終わらせることができたんです。これを大政奉還といいます。
なんで慶喜が政権返還に応じたのかというと、倒幕派側から「幕府が新政権に変わっても、次の政権のリーダーも慶喜様です。」っていう提示があったからです。例えるならば、株式会社をNPO法人に組織変えするけど、今の社長にはそのまま理事長になってもらいます、って感じですね。
慶喜はこの提示を受け入れました。名目だけとはいえ、先祖代々260年も続く老舗の看板を下ろすということは、ものすごく勇気がいることです。そしてこの慶喜の決断があったからこそ、内戦をヨーロッパにつけこまれることなく、日本は近代に進むことができたという意味で、大政奉還にはものすごく大きな意義があるんです。
ところが、慶喜が自ら幕府をたたんだあと、2ヶ月後に、次のリーダーとかを決める小御所会議が開かれました。慶喜抜きで!
そこで決定されたのが、辞官納地です。「辞官納地」とは、難しくいうと、江戸幕府最後の将軍を自ら辞職した慶喜の、残った官位である内大臣と、領地を返上させることです。雑に説明すると、「辞官」ってのは、慶喜の残った名誉も年金も全部奪って、慶喜をただの人にすることです。「納地」ってのは、ついでに慶喜の土地、っていうか収入源のほとんどを没収するという、謎理論にもとづく謎命令です!
だって、慶喜の土地って私有地ですよ。私有物なんです。想像してください。みなさんが会社のシャチョーサンだったとして、会社を追い出されるついでに家にある北斗の拳を全巻没収されるようなもんです。これはもう、血の涙を流さずにはいられません。
この哀しみが分かりませんか? じゃあ、もう一つ例えましょう。みなさんは毎年百億のカネを産み出す莫大な資産を持っているんです。土地とか屋敷とか。でもそれを維持管理するために、何十億のお給料を払って何百人もの人を雇っているんです。土地を管理するためには武士を、家を管理するためには何十人のメイドさんを! しかも、その人たちとは、先祖代々の付き合いと主従関係で固く結ばれているんです。
それなのに、資産だけを全部奪われたら(※実際にほぼ全部取り上げられた)、雇用は維持できないんです。みなさんは、そうしたたくさんのメイドさんをクビにできますか!? メイドさんですよ! メイドさんなんですよ!!・・・はあ、はぁ・・・ちょっと興奮しすぎました。
このあまりに卑劣な、まるで拳王侵攻隊のようなやり口に、さすがの慶喜もキレて新政府に戦いを挑しました。これを戊辰戦争といいいます。日本の未来のために将軍を辞職した慶喜でしたが、いまや公人ではなくただの人。そして、国家に反逆するテロリストというポジションです。慶喜の味方をすれば犯罪人なので、味方も集まらないし、味方のやる気もふるわない。あっという間に負けましたとさ。